「孫子」を読む(16) 以正合、以奇勝。

IMG_1323孫子勢篇第五は「凡戦者、以正合、以奇勝。(中略)戦勢不過奇正、奇正之変、不可勝窮也。」という言葉が出ます。現代語訳では「凡そ戦闘は、正攻法で敵を食い止める直接的な力をもって構成し、勝敗は敵の意表をつく間接的な力を持って決せなければならない。(中略)戦いには、正と奇の二つの力が存在するにすぎないが、その組み合わせによる変化は無限であり、常人の精神をもってしてはそのすべてをとらえることは不可能である。」とあります。

我々は、ビジネス上の会話で、リーダーの取るべき戦略、フォロワーの取るべき戦略、ニッチャーの取るべき戦略と語られることをよく見かけます。先に引用した孫子の言葉では、リーダーは正攻法で競争相手を受け止め、ニッチャーは敵の意表をつく間接的な力を持って決せなければならないということになるでしょうか。孫子のいう「正攻法」と「間接的な力、言い換えると奇襲」の組み合わせは無限に存在するといいますから、「正攻法」も無限ですし「奇襲」も無限です。また、ポジショニングによっては企業規模に関係なく、リーダーとニッチャーの位置は変更することができます。経営戦略の妙は規模の小さい企業でもポジショニングによってリーダーの位置をとることができるところにありますが、どうすると実現するかを検討するかが戦略家の行う仕事となります。

「正攻法と奇襲」を経営戦略に充てようとすれば、いつもお世話になっております『事業システム戦略』によれば、自社が展開する事業コンセプトを設計する際には、顧客”Customer”、競争相手”Competitor”、自社”Corporation”の3Cの関心を払う必要があるといいます。余談ですが、戦略論を使って経営戦略を語ろうとする時には「顧客」の立ち位置が「同盟者」と同じになりますが、自社と利害が一致するときに「同盟者」となります。戦略論と経営戦略論では「顧客」と「同盟者」の扱いが微妙に違う気がするのです。

「孫子」にしても『事業システム戦略』にしても、直接的に我々に提供するのは「思考パターンのフレームワーク」であって直ちに何かをダイレクトにヒントになるものを提供することはありません。だからといって、この種のフレームワークを知らなくてもよいというものでもありません。顧客が何を求めているのか、競争相手はどこなのかを知ることがなければ先には進まないのですが、普段のビジネス活動においてはほとんどの場合意識することはありません。

意識することがないことと不要であることは異なります。「以正合、以奇勝」を考えるときに最初に「どのような顧客に何を提供するのか」を検討することです。この部分は「以正合」であって「以奇勝」ではありません。小売業の場合に何を提供するのかと製造業の場合に何を提供するのかということは通常同じではありません。「入れたての珈琲」を提供するサービスを大手コンビニエンスストアが提供しておりますが、コンビニエンスストアが提供するのはコーヒーではなくコーヒーに隠されている満足感であり、コーヒーメーカーは満足感をもたらせるための珈琲と考えます。

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