「孫子」を読む(19) 「組織は戦略に従う」

741px-Japanese_plane_shot_down孫子勢篇第五に、「紛紛紜紜、闘乱而不可乱也。渾渾沌沌、形円而不可敗也。」という文が出てきます。現代語訳では「戦闘が喧噪とどよめきの坩堝と化し、乱戦状態に陥っても「組織・編制(分数)と通信機能(形名)がしっかりしておれば乱れることはない。また戦闘が混戦し流動化しても、組織・編制と通信機能さえしっかりしておれば」敗北することはない、となります。ここで経営学の教科書を思い出すのですが、「戦略は組織に従う」という命題と「組織は戦略に従う」という命題があります。第二次世界大戦後、日本企業は合衆国海軍太平洋艦隊の「任務部隊(戦史ものを読めば機動部隊と記載されます)」を研究して組織運営を行ったといわれています。

任務部隊(Task Force)とは特定の作戦を実施するために固有部隊から兵力を抽出して編成される部隊を指す用語ですが、作戦目的に応じて柔軟に編成されるということが戦後の日本企業にとって参考になったようです。実は旧帝国海軍にも同じような発想で艦隊編成が行われたこともあったのですが目立たなかったのです。そのため企業経営の参考にならなかったのでしょう。ということで戦略は組織に従うのではなく組織は戦略に従うという方が私にはしっくりときます。前回の記事で「タイミング」を問題としましたが、このTask Forceの運用もタイミングがあったと思います。

先日、日産自動車が、三菱自動車が実施する第三者割当増資を引き受けて約2,300億円を出資し、持分法適用会社になる旨の発表を行われました。このディールは三菱自動車の燃費不正疑惑が明らかになって影響がどのように出るかが明確になる前に実施を決めたようです。日産自動車のゴーン社長と三菱自動車益子会長の個人的な信頼関係が前提に有ったとは言われていますが、それ以前から検討されていたと考えられます。しかし、報道によれば数日で意思決定を行ったかの記事が出ていました。そこで登場するのがTask Forceです。今回のM&Aを行うにあたり問題となる箇所を検討し、会社にとって問題なく処理できるという判断を行うのに必要となる調査を部門横断的に実施したということが述べられていました。ある目的のために人員を抽出するこの種のやり方は、日産リバイバルプランを作成するために話題となったCFT(クロスファンクショナルチーム)を連想します。最もCTFが常設されると任務部隊ではなく固有部隊ですが、その他の企業でもCTFを参考にした運用を行うことが見受けられます。

最初の引用では組織と通信機能が整えば敗北することがないとなっておりますが、組織が戦略に従うという見地に立ちますと、組織をしっかりさせる以前に戦略をしっかりさせる必要があるということですが、戦略はその詳細が外部に漏れることはほとんどないので、自社にとって有用な戦略がどのようなものであるかは自社で考えるほか方法はありません。実を言えば戦略の立案及び実施の検討に当たって必要なフレームワークが複数存在することは確かですが、なかなか使いこなせないことが多いようです。

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