事業承継を考える(3) その日は突然やってくる

私が事業承継問題を考えるときに参考にする資料に、『事業承継ガイドライン』があります。政府が作成したものですから事業承継実務に直結するものも含まれますが、統計資料も含まれており読み物として面白いのです。『事業承継ガイドライン』の中で記載されている事業承継を後回しにする理由の第一位は『普段の業務が忙しいから』でした。事業承継には明確な納期はありません。先代社長が亡くなる前に事業承継が完了し、企業運営がつつがなく行えるようになっていれば特に問題が生じることはないでしょう。ところが、人間はいつ亡くなるかわからないため、約半数の企業において「事業承継は突然やってくる」事態になります。

『事業承継ガイドライン』によれば、後継者を一人前の経営者に育て上げるのに5年から10年の歳月を必要とするそうです。長期10年の準備期間を要する前提に立つならば事業承継は10年計画になります。ところが、事業承継をする予定のない企業の3割は後継者がいないという理由で廃業します。家族側の理由で承継人の当てがないとする企業も約3割あります。更に企業規模が小さくなると家族以外に承継人候補者がいない蓋然性が高くなります。従ってその日に備えようと意思決定をしたとしても効果が出るのに5年から10年の歳月が必要になる公算が大きくなります。

ところが、普段の仕事が忙しいから後回し、なり手がいないから探すことは後回し、息子は自分より頼りないからあわてて承継させると会社が危ないという理由からか、事業承継はどんどんと後ろに倒れることが多くなります。また、先代から見ると後継者は頼りなく見える場合も存在するため、そのように見えると後継者にバトンを渡すのは時期尚早となります。更に年長者として接してくれるため廻りは配慮することからまだまだ現役でいることができるように判断します。しかし年齢を重ねることに仕事に対する情熱や意欲は低下する場合も見受けられ、時代の変化について追いつかず、チャレンジ精神を失う可能性もあります。それでも生きていくのにいろいろな手段を講じてくれるのは重要だと思います。

しかし、まだまだ若い者には負けないとする気力を奪う物が年齢とともに生じ易くあります。それは成人病です。今ではかなり治る病気にはなったというものの、特にがんになるとなかなか手ごわい病気です。今では2人に1人ががんになるとはいえ、がんは発生場所、種類と時期によってはまだまだ不治の病です。がんが発見されるといきなり事業承継の話になることが起こり得ます。次に突然やってくるものは事故死による場合です。これらに共通することは、ある日突然やってくることです。いくら念入りとした準備を行って事業承継を行おうとしても当事者の一方が病気やけがで長期離脱を行えばそれどころではなくなります。このように考えるならば事業承継はある日突然やってくることだってあり、突然やってきた場合は聞く人はいないということです。周到な用意ではなく、突然やってきた場合にはどう対応するか、利害関係者に迷惑を掛けずに閉鎖するのか、あるいは発想の転換を図りつつ存続させるのか、それが問題です。