J.C.ワイリー『戦略論の原点』を読む(6) 今までの戦略理論の限界

ワイリー提督は従来の戦略理論の限界として「今までに起きたことは説明できるが、これから起きることを論理一貫的な形で説明できるものはない」と指摘します。この指摘を受けて、ワイリー提督は理論構築の方針として二つのアプローチを提示します。第一は同意反復分的で、一部の隙もないような構成要素を使って理論の構築を行う、第二はすでに起こった事実のみを説明する理論を構築するとする方法論を用いて「統合理論」を構築すると宣言します。その目的は、「将来何が起こるかわからない事象に関して予測と制御を行う」ことと考えます。ちなみに、ワイリー提督によれば従来の戦略理論はすべて特定の分野に特化した理論であり、特定の条件でのみ成立するものであり、特定の条件を外れると成立しなくなる性質があるといいます。それぞれの理論は陸・海・空のだけで成立するものであるから自然環境から逃れることはできません、とだけ指摘するにとどめます。なお、統合理論を構築する際に手がかりを与えるのは、リデル・ハート卿が提唱した「間接的アプローチ」で、間接的アプローチは孫子にある「夫れ未だ戦わずして廟算して勝つ者は、算を得ること多ければなり」を目的とします。ただ、間接的アプローチには「形がないので現実の問題解決に応用することは困難である」とする欠点があります。このため、間接的アプローチを使って何かをしたのでは、ということを割り出すことは困難です。間接的アプローチの概念だけをある人に説明したことはありますが方法論までは示せなかった。  戦略論を学修するのであれば、肯定的に捉えるか否定的にとらえるかは別にして戦略論を語る上ではクラウゼヴィッツの『戦争論』を避けて通ることは不可能とされていますし、経営戦略論を語る上ではポーターのポジショニング学派を避けて通ることはできないとされています。例えば、リデル・ハートはクラウゼヴィッツを否定しますがその著作の引用を行うため影響から自由ということはありません。またポーターを批判する学派はポーターの影響を受けていることを意味します。では、実践者の観点から見れば戦略論はそこまでひどい状況にあるのでしょうか。実践者の視点で言えば、相手方の効力を無効化するための目標を明示でき、目標に到達するための方策と方策を実現するための資源の確保を行い、実行について優先順位さえつけることができるのであれば、専門用語が豊富でなくても再現性が容易でなくても、多数の実践者を確保するための教育訓練が困難であっても、特定の実践者が実行できればそれで良いわけであって、そこまで問題視することはないのかもしれません。ただ、だれでも簡単にできるとされる経営戦略策定ツールが書店に行けば売られていますが、私は誰でも簡単に策定できるとは考えておりません。それぞれのツールにはそれぞれに限界が存在しますから、その限界を踏まえて利用する必要がありますので、限界を把握している助言者からのアドバイスを受けて利用することをお勧めします。