事業の創造 解題(6) 『電車は阪急 歌劇は宝塚』

意図せずに有馬温泉の手前にある鄙びた街宝塚にターミナルを持ってしまった阪急電鉄は、宝塚を有効活用する必然性に迫られました。筆者自身が少女歌劇団に対して興味がないのでなぜ小林一三が少女歌劇団を着想したのかは正確にはわかりませんが、彼は三越で開催されていた少年歌劇団を意識して少女歌劇団を編成したようです。ここで注目するべきは小林一三が慶応義塾の文科(フランス文学科)を出ている、小説を書いていた文学青年であったということです。実は鉄道会社というものは秩序を維持するという特性があるため文学部出身の鉄道経営者はまれです。鉄道事業経営者は工科出身か法科出身であることが多いのです。鉄道事業は決められたレールを決められたダイヤグラムに従って走らせる特徴があります。このため工科や法科が求められます。

 さて、宝塚歌劇は宝塚温泉の温水プール施設の活用という、遊休資産の有効活用で開始されました。宝塚歌劇を始める前に、阪急電鉄は電車の開業と同時に箕面に動物園を設置し反響を呼んだのですが、失敗に終わります。そもそも自然美を楽しむ観光地である箕面に動物園を置くこと自体が問題となり、動物園は宝塚へ移設と決定しました。この時に宝塚は大衆娯楽の一大拠点として活用されることになりました。この一環として動物園の移設、ファミリーランドの建設と合わせて老若男女が合わせて楽しめる歌劇団の設置が行われたのです。

また、宝塚歌劇団は当初宝塚へ向かう乗客の創造という任務をもって設置されたのですが、初期の宝塚歌劇団は上野音楽学校(現在の東京芸術大学)出身の音楽家安藤弘、智恵子夫妻を音楽監督に迎え入れて音楽的にハイクオリティーな舞台としました。本格的オペラの上演に耐えられうる少女唱歌隊及び音楽隊の編成を行って、初演「ドンブラコ」を演奏します。初期においてオペラに基礎を置いた歌劇を演奏したことがその後の宝塚歌劇を形作ったのだと思いますが、いかんせん私には関心がないのでこれ以上宝塚歌劇について述べることはできません。

ただ言えることは、女性のみの歌劇団が宝塚に編成されたことは宝塚の町のイメージを高めたことに間違いなく、結果として、阪急電鉄の言う「大衆」とはオペラを基礎に置いた「宝塚歌劇」を理解する人たちによって構成されることを意味するようになったということです。阪急電鉄は「大衆」を向いている商売をするのですが、ここでいう大衆と「大衆酒場」のいう大衆とは違うのではないか、阪急電鉄のいう「大衆」とはホワイトカラーでもアッパーミドルではないかという気がするのです。阪急電鉄の言う「大衆」とは宝塚歌劇を理解することができる程度の教養のある人たちを指すということでしょ

タイトルとURLをコピーしました