事業再構築を考える(2) 新幹線の異質性を考える  輸出産業になるための問題点

1 新幹線の問題点

新幹線は鉄道産業の寿命を延ばすとともに、世界各国に「高速鉄道ルネサンス」を巻き起こしました。日本の新幹線の成功を見てフランスのTGV、ドイツのICE、国際列車ユーロスター等が開業すると同時に、各国は高速鉄道を輸出しようという動きが出ました。元祖高速鉄道である新幹線は李登輝元総統の日本贔屓もあって台湾で車両が採用されたのみですから、輸出産業としての新幹線は失敗作かもしれません。そこで新幹線システムを輸出する際の問題点をここで検討します。実は新幹線が輸出できないことはが新幹線が鉄道システムとして成功した要因となります。

東海道新幹線システムが輸出できない理由は大きく次の3つに収斂されます。

①   European Norm を採用していない

②   大量輸送機関である

③   車両、軌道、運行管理、接客設備の渾然一体となったシステムである。

 

2 EN規格を採用していない

東海道新幹線システムは日本国有鉄道が建設したものですから、日本工業規格(Japanese Industrial Standard)に準拠して設計されています。これは日本国の工業標準化法が国家として調達する資材はJISに準拠しなければならないと規定していることに由来するものです。また、当時の国鉄は新幹線システムを輸出することを念頭に置いてシステムを開発したわけではないので、EN規格を採用する理由はありません。ただ20世紀最後10年からの高速鉄道の輸出に際して、世界各国で鉄道に関してENを採用する事例が多くなり、今ではENが鉄道産業におけるデファクトスタンダードになっていると以前新聞で読んだ記憶があります。鉄道を支えるシステムの多くがEN規格に準拠していることはアルストムやシーメンスに有利に働きますが、受注実績からするとKTXの受注や台湾新幹線の路盤にみられるようにアルストムの一人勝ちという状態です。

 

3 大量輸送機関である

2012年12月3日新大阪駅にて

東海道新幹線16両編成の車両は1323人を輸送することができます。この輸送能力は東京圏の通勤電車に匹敵し、ジャンボジェット機で2.5機分の能力があります。この通勤電車並みの輸送力を有する電車を通勤電車並みの間隔で運行する輸送形態は日本の新幹線を除いてほかにありません。日本人からするとTGVやIECの運行間隔は近鉄特急アーバンライナーなみであるといえば驚きをもたれますし、逆にヨーロッパ人から見れば昼間時で最大1時間あたり「のぞみ」10本、「ひかり」2本、「こだま」2本を最高時速270㎞で走行させる東海道新幹線のダイアグラムは驚愕の世界です。たまたま私が関西圏の人間であるため関西圏の例で話をすれば、西明石~草津間の複々線を走る電車が全部時速270㎞になったという感じでしょうか。そんなに急ぐ人間が大量にいないという事情も新幹線以外を採用する動きに拍車をかけます。

 

3 車両、軌道、運行管理、接客設備の渾然一体となったシステムである

新幹線開業から3年後の1967年1月にNHK「うたのえほん」でうたわれた「はしれちょうとっきゅう」のなかに「じそく250きろ」で走ると歌われている超特急「ひかり」号ですが、実際は時速210キロです。これを実現するために車両ではなく、軌道を専用線とし、東京一か所だけで運行を集中管理する(実際にはバックアップシステムが大阪にあります)新幹線運行管理システムCOMTRAC、高速で通過することを可能とする駅舎、さらに日本人特有の鉄道ダイヤは厳格でならないという感覚が混然一体となって高速定時運行を行っています。運行管理は高度に自動化されているとはいえ、最後は人間系が高速、高密度、定時制を支えているという泥臭いシステムを輸出するというのは想像がつきません。これが全自動となれば輸出に向くのだと思います。

 

4 ここでは見方を変えただけです

世界的に見て成功した鉄道システムといわれる東海道新幹線ですが、視点を輸出製品に変えるだけで成功とはいいがたくなります。我々が事業を評価するときに本来とは異なる視点で評価することはままありますし、評価軸が正しくないこともあります。事業戦略であれ、事業構造であれ評価軸が正しくなくなるとそれだけで中断するべき事業が継続することがあり、またその逆も起こりえます。これを防止するためには事業構築を行う際に評価指標を明示しておくことが必要になります。そのために集めるデータや指標をあらかじめ決めておくことも必要です。

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