事業再構築を考える(8) 有法子

1.新幹線が我々にもたらしたもの

国鉄の事業再構築の一環として実施された東海道新幹線の建設ですが、その後の国鉄が赤字経営体質から脱却できずに分割民営化になったことを考えると国鉄の事業再構築としては成功したのかどうか疑問はあります。しかし、鉄道産業の再構築には成功したといえるでしょう。新幹線の成功は世界的見て「高速鉄道に対する需要」があることを証明したことも重要な意味を持ちます。東京から北九州市程度の移動距離であれば飛行機に対して優位に立つことができることを新幹線は証明したのです。高速鉄道が有効なのは移動距離300キロから800キロ程度までとされています。それより短い距離では自動車が有利に、それより長い距離では飛行機が有利になるとされています。

前にも触れましたが、経営史上において、鉄道産業はあくまで19世紀において産業界をリードしました。また管理会計上も19世紀の鉄道産業は貢献します。19世紀アメリカの鉄道産業において行われていた原価計算が現在の原価計算の基礎となります。このように元来は19世紀の産業であった鉄道産業が新幹線によって21世紀初頭までは息を吹き返すことになりますし、現在の産業界において輸出産業としても注目されています。

 

東海道・山陽新幹線歴代車両 撮影 Pagemoral

日本の産業と日本人のライフスタイルに変化を与えたことは間違いないでしょう。まず、新幹線によって普及した工業標準化が多数の産業において競争力をつけることができました。鉄道車両製造の周辺産業と運航管理及び座席供給によってもたらされた情報通信産業が発展しました。次に、真に東京から大阪への日帰りを可能としました。国鉄は新幹線開通前に「ビジネス特急こだま」号を運行しますが、「こだま」号は最高時速95キロで運行されていたこともあり、東京から大阪まで6時間50分の所要時間を必要としましたので、東京から大阪間の日帰り出張は掛け声倒れでした。これに対して現在の超特急「のぞみ」号の東京から大阪までの所要時間2時間25分では日帰り出張を真に可能にしています。また、これは余談ですが「シンデレラエクスプレス」なる現象もみられることから、恋人たちが会う時間を増やすことができました。

 

2.有法子

 有法子(ユーファース)=不屈の精神という意味の中国語だそうです。十河信二国鉄総裁の半自伝のタイトルです。この半自伝ですが、新幹線建設については、建設時期に初版が出版されたことからほとんど触れていません。不屈といえば「不撓不屈」なる映画が滝田栄主演で制作されますが、この映画は飯塚毅税理士・公認会計士の動きについて描いたものです。その中で、飯塚税理士は国税庁の横暴に立ち向かう税理士として描かれています。その後の経緯から飯塚税理士・公認会計士を悪く言う人もいますが、「不撓不屈」として描かれる何かを残したわけで、その支えには何かがあったのでしょう。念のため申し添えますと、私は飯塚税理士・公認会計士について評価できるほどの何かを持っているわけではありません。

翻って私を見ると、そこまでの何かがあるとする自信を持つことはなかなか難しいです。であるがゆえに、事業再構築をするうえで優先順位をつけて最後までやりきるというのは困難なのです。再構築にしろ、国税庁と戦うことであっても、過去の経験が頼りになるのではなく、自らの信念と論理だけが頼りだからです。実績に基づかない2つの要素については不安でしかないのです。いかにこれに打ち勝つか、事業再構築を行う我々の課題です。ロジックと専門知識だけを手掛かりに先に進むのです。思考実験を加えることによって不安を自信に、自信を確信に変える必要があります。そのために助言者が必要であれば大いに利用していただければと思います。自分では過去に未経験であったとしても、助言者にとってはよくあることであったかもしれませんし、助言者も経験のないことかもしれません。前向きな助言であるのか後ろ向きな助言であるのかは助言者の性格によって左右されるかもしれませんが、何らかの支えになると判断すれば助言に耳を傾ける必要があると思います。ただ、事業再構築において最もご自身の支えになるものは「有法子」「不撓不屈」です。自らを信じる根拠を自分自身に求めることが重要です。

 

3.参考文献

 

「有法子」 十河信二自伝 十河信二 ISBN  978-4-86310-0065-7

「新幹線を作った男 島秀雄物語」高橋団吉 ISBN 978-4093410311 

「夢の超特急」、走る!―新幹線を作った男たち碇義朗 ISBN  978-4167717483

TGV vs.新幹線―日仏高速鉄道を徹底比較」佐藤芳彦 ISBN  978-4062576154

「みどりの窓口を支える「マルス」の謎―世界最大の座席予約システムの誕生と進化」 杉浦一機 ISBN 978-4794214331

「定刻発車―日本の鉄道はなぜ世界で最も正確なのか?」 三戸祐子 ISBN 978-4101183411

「直接原価計算論発達史―米国における史的展開と現代的意義」 高橋賢 ISBN 978-4502280405

「海軍経営者山本権兵衛」千早正隆 ISBN  978-4833419222

「史論児玉源太郎―明治日本を背負った男」 中村謙司 ISBN 978-4769814542

「太平洋に消えた勝機」佐藤晃 ISBN 978-4334933074

DADIDA」松任谷由実 EAN  4988006157934

MELODIES」山下達郎 EAN  4988029415035

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