「スケールアンドスコープ」

スケールアンドスコープとはアルフレッド・D・チャンドラー ハーバード大学名誉教授の著作のタイトルです。大学院1回生の外書購読のテキストに指定されました。“The Dynamics of Industrial Capitalism”とサブタイトルは続きます。経済学上の基本用語と聞いていましたので、決算報告書に「範囲の経済の追及」という言葉を入れましたら、金融機関出身の監査役に「範囲の経済なんて言葉は一般的でない」と言われたことがあります。範囲の経済という言葉は金融機関では使わないのかな。

元来の用語はThe economy of scale(規模の経済)と The economy of scope(範囲の経済)なのですが、チャンドラーの独自性はThe economy of scale and scopeとしたところにあるということです。この解説を大学院の講義で初めて聞いたときはなんのこっちゃと思いました。規模の経済も範囲の経済も知らんがなと思っていたところに、先生が追い打ちをかけて「いやしくも経営学で修士課程に在籍しているというためには、経営学上の基本概念を知っておく必要がある。君らは遊んで大学院に来たんやろう」と言います。

私は学部生時代、遊んでいたかどうかのコメントは控えますが、少なくとも経営学を勉強して大学院に入った記憶はありません。それでもなぜか院試の答案は書けましたよ。先生から、せめて「日本経済新聞社の『ゼミナール経営学入門』は読んでおくようにと言われました。ですから、日本経済新聞社の「ゼミナール経営学入門」を読み、大学院の2年間は常に経営学原理の講義には出ていました。

規模の経済と範囲の経済は基本的に異なる場面で異なる原理として適応できると説明されますが、担当教官によるとチャンドラーは「異なる場面の適応について同じ原理で説明できる」と言います、とのことです。ここがThe economy of scale and scope(規模と範囲の経済)のandの所以です。実は異なるアイテムに同じ処理システムを通過させることが「規模と範囲の経済」を成立させることになるといいます。異なるアイテムが同一の種類であれば規模の経済、異なるアイテムが異なる種類であれば範囲の経済なのですが、多品種少量ものを同じシステムで処理すると規模と範囲の経済の実現となる、と言います。チャンドラーの著作によりますと代表的な例として総合商社の仕入れシステムが例示されていました。異なる多量のものを同じシステムで処理をするということです。

さて、チャンドラーの外書購読ですが、遅々として進まず、一つの章を読んだのが関の山だったように記憶しています。英語そのものが難しいという事もありましたが、主たる要因はあまりにも経営学の基礎概念を受講者が持って居なかったことにありました。特に、私の場合は法学部出身ですから、経営学の基礎概念を持って居ることもありませんでしたので、ゼミナール「経営学入門」にはお世話になりました。

ゼミナール「経営学入門」で一番インパクトがありましたのは、「経営者は競争を望んでいない。競争を望むのは経済学者であって、経営者ではない。もし、独占禁止法がなくなれば経営者は皆独占を望む」とはしがきの最初にあった言葉でした。経営者はみんな競争が嫌いなんだ、では競争のない世界をどのように作るのかについては、当時は考えたことはありませんでした。学生というのは青臭いですね。

ただ、面白いのは、競争の要因を説明する概念である規模の経済や範囲の経済を使うことによって、競争を回避するための事業システムを設計できるということです。競争回避を実現するためには競争を実施することである、逆説的であるのですが面白い説明ではないでしょうか。

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