集中化と外部化の経済 事業システム設計4つの原理(4)

1.集中化の話をすると兵学が出るのですが

 

自動車用ケーブルに集中している会社の製品群

孫子謀攻編に「十なれば則これを囲み、五なれば則これを攻め、倍なれば則これを分かち、(中略)若かざれば則能ちこれを避く。」とあるので、兵力集中の必要性があると説きますし、兵力の逐次投入は各個撃破されるから現に戒めています。少ない兵力で敵を打ち破った先例もあるためおかしいではないかという声も出るでしょうが、兵力≠戦力という側面があるため、単純に兵力集中すればいいというものではありません。兵力≠戦力であるのは、戦力を構成するのは兵力以外に場所、主将の優劣、兵員の錬成度、天候、士気などがありますので、単純に数字では比べられません。

戦略論は兵学上の概念であるため、たまに集中化の経済を兵力の集中から導くこともあるようです。先に示した通り孫子は兵力の集中が大事であるといっているため、先の言葉が引用されるようです。しかし、兵力集中ですべてが片付くならば、「ゲリラ」の説明はできませんし、ベトナム戦争の戦例も説明できません。全体としては劣勢であったとしても局地的に兵力が集中していれば戦闘に勝てるということを示しています。実はここに中小企業が大企業に勝てる可能性を見出すことができます。局所的な優位性を作り出すことが中小企業にとっては重要な要素となります。

しかし、経営学上の概念は兵学から持ち込まれたものはほとんどありません。経営戦略論だけは兵学上の概念である「戦略」から論理を展開していますが、その後の展開は兵学を参考にしたという例をあまり見かけません。本邦において防衛大学校の教授が経理戦略について語った例を知りませんし、諸外国においてもたとえば米軍のCGS課程の教官が「経理戦略論」を出したという話を聞きません。あくまで経営学は経済学の応用であり、社会学の応用であり、認知心理学の応用の側面が強いです。特に本邦では平和憲法がある関係上、兵学を研究する機関が防衛省防衛研究所にほぼ限定されることもあり、一般人が兵学に触れることもあまりありません。

 

2.ヘクシャー=オリーン=サミュエルソンの定理:比較優位

 

私が思うに集中化と外部化の経済は「協働と分業」を基本コンセプトにおいているのではないかと、であるならば兵学の概念ではなく経済学の定理が基本にあると考える方が正しいように思います。私は「知の力」を信じる人間ですが、大多数の方は「知の力」とは言わず「机上の学問」といいます。「経済学とやらが有用であるならば、その人間は富を得ているはずである」といいますが、学者という人種はどちらかといえばビジネスより「真理の追究」に関心がある人たちですので金儲けは下手というより関心が薄いですね。

さて、最近特に日本の新聞で名前をにぎわすポール=グルーグマンプリンストン大学教授の教科書で名前とその内容を紹介する「ヘクシャー=オリーン=サミュエルソンの定理」を紹介することは意図していません。「コア=コンピタンス経営」の背景には経済学の理論があることをお伝えしようとしています。比較優位の考え方は、ポール=サミュエルソン博士が「女性弁護士とタイピストの例」と遣って説明してくれます。サミュエルソン博士の例では「すべての面で優れている女性弁護士(その当時は女性弁護士が少なかったんでしょうね)とすべての面で劣っているタイピスト(女性であるという暗黙の了解があるのでしょうね)がいたとする。法律関係業務とタイプ能力を比べて見た時に、タイピストはタイプ能力の劣り方がまだましだというときに、弁護士は法律業務に、タイピストはタイプに特化すると全体として最大のパフォーマンスを得ることができるという」考え方です。この考え方がコアコンピタンスの下敷きになっていると考えることが自然だと思います。比較優位説には前提があるので、使い方を誤らない限り人生を豊かにしてくれます。

「机上の学問」とは言いますが、世界でも最高レベルの知性が寄ってたかって検討したものですから、私は真っ向から否定することはどうかと思いますよ。ただ、学者先生の言っていることをそのままの形でストレートに適用することができるほど、個々の事業は整理されているとは思いません。個々の事業に当てはめて成果を出すようにするためにコンサルタントという専門家は存在します。

タイトルとURLをコピーしました