事業システム戦略論が難しい理由(2) 方法論を提供するにすぎないから

   科学的な方法論に従った理論が提供するのはより多くの実践を可能とするための「単純化したモデル」であり、単純モデルには前提条件があります。この前提条件を無視した中で理論に不整合があったことをもって「机上の学問」の批判が成り立ちます。実はこの批判に対して理論家は反論できる方法を持っていません。理由は単純で、発言者側が理論の特性を理解していないからです。通常、専門家と素人間では知識量と運用能力の差から専門家側に説明責任があります。しかし、理論には前提条件があって成り立たない場合があることについて説明を試みた場合、「前提条件の外」にある例をもって理論が成り立たない反論をされることが多いのです。アベノミクスで言われている公共事業を用いた景気回復策である、一種のケインジアン的手法はそれを用いるための「ハーヴェイロードの前提」があります。この前提を無視してケインズを用いたときに国家財政は破綻しますが、そのような前提があることなど政治家は無視します。 この「ハーヴェイロードの前提」が日本銀行の独立性の根拠になるのですが、そのようなことを知っておられる方もあまりいませんが、知らない人に対して説明しても聞いてもらえないことが多く、最近では「日本銀行総裁は雇用責任を持つ」という発言が社会に受け入れられています。これも専門家側が説明しないといけないことだとは思いますが、まじめに説明するためには「数年の時」が必要となるため、通常放棄されます。このために、専門家の発言を無視することが起こり得るのだと思います。

『事業システム論』を現実に当てはめようとしたとき、まず独学はほぼ不可能です。この本だけを読めて使いこなせるほどに詳しくは書かれていません。加護野学派の浅野コンサルティング株式会社代表取締役浅野雅史先生によると、加護野先生は「『事業システム戦略』は内容を限界まで絞って書いたので、これだけではわからない。これを実践するためには「通訳」が必要」と仰ったそうです。著者がそう言っているものを「それは違う」という度胸は私にはありませんし、実際そうです。困ったことに平易な文章で書かれているからそのようには見えないのです。しばらくは枠組みの解説におつきあいください。

タイトルとURLをコピーしました