第6章 M&Aのときに組織文化は痛感します

 企業活動を行うに当たり、普段は経営理念や組織文化を感じることはないと思います。経営理念や組織文化は人の価値観に作用して内側から制御をかけるということは、必ずしも明文化されているわけでもないので、強制力があるようには見えないのです。しかし、経営理念や組織文化は意識しないとはいっても、「社風」は意識されることが多いようです。採用時に「彼はわが社の社風に合わない」、新プロジェクトが「わが社の社風に合わない」、経営改革案が「わが社の社風に合わない」というように、社風が合わないという文面でとらえられることが多いようですね。ということは、社風と同じように経営理念や組織文化も存在すると言ってよいと思います

 さて、ビジネス版悪魔の辞典によりますと、「社風の違い」は、「合併後、うまくいかないときの常套句」と定義されています。ということはやはり、M&Aのときに、普段意識しない社風を感じることが多いということです。確かに、M&Aは異なる経緯で存続した2社以上が一つになるのですから、合併前の会社の経営理念や組織文化が表に出ることになります。この衝突を防止するためには、解散会社の文化を消滅させて存続会社の文化に合わせるということが一般的ですが、これがプライドの高い会社同士になると簡単には行きません。このような事態になると持ち出されるのが「対等合併」の扱いです。元来合併は1+1≧2とすることを目的としますが、対等合併の場合、長年にわたり1+1≦2となるような動きをします。

 対等合併が外部に現れるシグナルは「社名」と「たすき掛け人事」です。例として出せば「三越伊勢丹」であり「三井住友銀行」です。これらの例では「伊勢丹による三越の吸収」や「住友銀行による三井銀行の吸収」なのですが実体を隠すための社名となっています。また「三菱東京UFJ銀行」の場合は「三菱銀行による吸収」という実態を表す和文名称になっていますが、英文の“Bank of Tokyo-Mitsubishi UFJ”の“Bank of Tokyo”が欲しいのでこの名前を短くすることはできないし変えることもないと言っています。

 とはいえ、合併すると仕事の進め方が異なるということを知ることになります。特に、たすき掛けを行っていない三菱東京UFJ銀行の場合は、UFJが東京三菱に合わせましたが、融資稟議の書き方ひとつとっても記載するべき内容が異なり混乱をしたようです。UFJP/Lだけで融資稟議を書いていましたが、東京三菱はB/S添付が必須でした。このことは単に規程が違うということだけを表しているかもしれませんが、実態としては貸し出しに対する姿勢、ひいては社風が違うということを端的に表しています。即ち、旧UFJ銀行は、旧住友銀行と同じように「収益性こと命、イケイケどんどん」であったのに対して旧東京三菱は「組織の三菱」、「健全経営の三菱」とされていた通りどちらかといえばおっとりしています。さらに、旧UFJ銀行は銀行システムの中で最先端の情報系システムを持っていましたが、当然、この情報系システムは旧UFJ銀行の文化に合わせて設計されていましたので、合併と共に旧と東京三菱銀行のシステムに合わせることになりました。この場合は旧UFJのシステムを捨てることを意味した点でみずほ銀行とは異なります。銀行の情報系システムは社風や企業文化あるいは仕事の進めかたを色濃く反映していますので、銀行システムとしては最先端であるという事であったとしても、社風や組織文化に合わないとなれば思い切って捨てざるを得ないのです。

なるほど、中小企業では関係ない話のように見えますが、中小企業では経営者の人柄が経営理念や組織文化に反映するものです。

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