第7章 マネジメントシステムの標準化

 我々のような衆生は、マネジメントシステムは企業ごとに異なるシステムを構築すると考えますが、頭の切れる一部のイギリス人は品質管理の一環として、マネジメントシステムを標準化するという恐ろしいことを考え出しました。実際、取引関係に入るための基本条件とさえなっている観のあるISO9000シリーズは、英国工業規格BS5750や米国標準規格ANSI Z1.15をベースとした規格です。また、マネジメント規格と呼ばれる、ISO14000シリーズやISO18000シリーズ、ISO22000シリーズやISO27000シリーズも、マネジメントシステムの根本は同じ標準で理解しています。どのように事業システムを構築するかはそれぞれに任されていますが、標準化という精神を踏まえますと、これらのISOシリーズを参照することは事業システムを構築するための一つの有力な方法です。

 

デミング博士

デミング博士

一般的に、ISOのマネジメントシステムが要求している事項は、作業標準化マニュアルと標準化活動の記録と理解されています。どちらかというと認証のために仕方なしに取り組んでいると思われることが多いようです。ビジネス版悪魔の辞典で、「多数の書類を作成し、補完し、毎年データを測定し、査察を受け、多大な認証料を払っても、この会社はつぶれなかったという証拠のマーク」と表現されていることからも、経営に有用であるないしは事業システムの理解には役に立たないととらえることが一般的なようです。

ちなみに、ISO9001:2008ではマネジメントシステムを構築し、改善するための方法論として「プロセスアプローチの採用を推奨」しており(JISQ9001:2008 項目0.2)、プロセスアプローチを「組織内において、望まれる成果を生み出すために、プロセスを把握し、運営管理をすることと併せて、一連のプロセスをシステムとして運用すること」と定義しています(JISQ9001:2008 項目0.2)。いま、JISQ9001:2008でプロセスと呼んでいるものを、事業システム論における企業システム論でいうシステムと同義語ととらえましても大きく間違うことはありません。

ISO9001:2008が要求していることの本質を端的に表現しますと大きく2点あります。第1点は企業活動を構成するシステムを明示しなさい、第2はシステム間の関連を明らかにしなさいというものです(ISO9001:2008 項目4.1)。また、規格はマニュアルを作成することを要求していますが、マニュアルの内容に関して言えば先ほど述べた第1と第2の内容を文書化することです(ISO9001:2008 項目4.2.2)。ISO対策として一般的に用意される、規格の項目に合わせて企業活動を記載したマニュアルとは違います。

この点に関して面白いエピソードをISO9001主任検査員である大和田先生から聞きましたので紹介します。当時のことを振り返って、「日本におけるISOのマニュアルの悪しき習慣は当社が作ったのかなあ」と大和田先生は述べていました。実際に、先ほど述べたようなマニュアルを作成したそうです。その時にイギリス人の主任審査員は「なんか違う」と言いながら審査をしたという事でした。その後、別の審査の時、主任審査員は企業が用意した「品質マニュアル」を見て「これはISO9001が要求する品質マニュアルと違う」と言い、別途作成された「プロセスマップ」を見て、「大和田君、これがISO9001が要求する品質マニュアルだよ」と言ったそうです。

ISOマネジメントシステムは、極端に言えば人類の英知が詰まったベストプラクティスのうち最低限を記載したものとらえることができます。おまけに、おおよそ仕事と呼べる活動すべてに適用できるように考えられていますので、これを参考にして事業システムの構築を考えることは決して悪いことではありません。

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