科学的方法論

    板倉聖宣博士が提唱した小中学生向け理科教授法に仮説実験授業があります。仮説実験授業とは、問題に対して予想、討論、実験による検証を繰り返すことによって科学的な思考方法を身につけるというものです。普通の授業とは異なり、ある事業に対して仮説を立て、討論をし、実験によって仮説を検証し、法則性を見つけ出すということに特徴があります。この授業法には、科学的方法論を身につけることができる可能性がある反面、授業に積極的に参加しなければ何も身につかないという可能性があります。私の場合はこの授業法のおかげで、仮設を立て、仮説の理論的整合性を検証し、実験で確かめるという知的習慣を身に着けることができたと思っています。

太史公『司馬遷』 さて、清涼飲料水の世界ではいくつかの定番品とその他大勢の新商品が棚を取り合います。定番品になりますと決まった棚を取ることができますが、新たに開発される清涼飲料水の大多数は定番になることなく棚から消えていきます。この中でポカリスエットは定番として残っている飲料の代表といってもいいでしょう。もちろん、すべての商品にライフサイクルがあり、ポカリスエットも例外ではありません。

 まず、大塚ビバレジの方針としていろいろな種類の商品開発を行うことができないからひとつの商品をじっくり育てるという方針があります。この点が数多くの商品を開発し、その中で当たればいいとするサントリーとは異なります。ポカリスエットはじっくりと育てるのに対して、同じ系統の飲料水であるDAKARAはじっくり育てるという方針ではないようです。最近、DAKARAをどの程度見かけるでしょうか。

 さらに、大塚ビバレジはサントリーと比較して広告宣伝費を投下することができません。そのため、サントリーと比較して広告宣伝効果がより確保できると見込まれる方法に投下することになりますし、広告効果を測定し、解釈するための方法論を持っている必要があります。実際、大塚ビバレジは中央線沿線で効果測定を行っているそうです。八王子、立川あたりで効果を測定し、不足していると判断すれば投下量を増やし、充足していると判断すればそれ以上の投下を行わないということだそうです。この点がDAKARAのサントリーとは異なります。サントリーは広告宣伝を実施し、短期間で投資を回収しようとする傾向にあります。また、ヒット商品を発見するために複数の新商品を投入するようです。このために、かなりの商品はブランド名を変更することになります。

 ここで重要なのは、大塚ビバレジ、サントリーのいずれにも、商品投入にあたりどの程度販売できるのかについて仮説を立て、仮説を支えるためにはどのようなプロモーションを実施し、プロモーション効果を測定し、判断するというプロセスをもっているということです。じっくり育てるにしても、短期で回収するにしても仮説検証サイクルは必要不可欠な要素です。

 実は、この仮設を立て、どのような方法で検証するかを検討することが科学的方法につながるのですが、この仮説検証プロセスを組み込み、運用する能力を持つ人間を養成するのは容易なことではありません。仮説検証プロセスを身に着けるためにはそれ相応の知的訓練を必要としますが、この知的訓練を施すには訓練者と被訓練者双方に問答の負荷をかけます。この為、教育課程において仮説検証プロセスを身に着ける知的訓練を施す場所は、小中学校で仮説実験授業に出会わないとすれば、文科系学生の場合、大学のゼミぐらいのものです。残念なことに、文科系人間にはこの種の訓練が嫌いである場合が多いように思えます。重要な点は頭の動かし方であって知識ではないのです。

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